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ハイピンD子のワーク

 ちょっと時系列が脱線したから戻す。そんな風に水面下では友人にアムウェイを紹介し始めてまもなく、俺はB男から「ワーク」を受けさせてもらえることになった。この「ワークを受けて初めて、自分が勧誘する側になってOK」とするのがこのグループのルールだそうで。ワークというのは、C男の直属のアップであるハイピン、D子が考えた勧誘方法で、例えるならばD子が10年(実際には20年かかったらしい)かけて登ってきた山道を最短距離で登るためのノウハウの集大成のようなもので、全部のワークを受けるにはかなりの時間が必要らしい。俺はそのワークをとっとと受けてしまって自由に勧誘活動がしたかったから、毎週のようにB男の家に通った。思えば「アムウェイでは勧誘前に必ずこれから自分がアムウェイの勧誘をすることなどを伝えないといけないことになってるけど、そんなことをしたら誰もついてきてくれないから、アムウェイの名前を出さずに連れてくることにしてる」だとか、「一ヶ月間のスケジュールを毎月FAXでA子に送って」だとか、はあ?と思えることも多かった。極めつけはワークの最後に「グループを大きくするためには3種の神器が必須。そして自分が3種の神器を買わなければダウンにもそれらの良さを伝えることができない。結果、ダウンも3種の神器を買わなくなる。だから俺くんが本気でアムウェイをやってグループを拡大したいのなら、3種の神器を買った方がいいんじゃないかな」という論法で暗に高額製品の購入を強制してきた。
 この辺りからアップに対してはかなりの不信感が芽生えていたものの、アムウェイのボーナスの仕組みに関してはいまだに悪くないと思ってた俺は、まんまと鍋・空気清浄機・浄水器を買うことを承諾しちまった。俺のアホ。
ワークの具体的な内容については、こちらのページを参照のこと)

 この時A子もB男もクレジットカードを作ることを強く勧めてきたが、それだけはかたくなに拒否したのが不幸中の幸いだったかも。結果グループの本性を垣間見れたしw 俺が3種の神器を買ったのは月末だったんだが、現金振込だとATMは一日の限度額が決まってるのね。で数日間にわけて入金してたんだけど、その月の末日が近づくにつれてA子が頻繁に俺に電話してくるようになったんだわ。後になって知ったが、この時A子はSP達成がかかってたんだと。それで俺が高額商品を買えば100万PV(当時は2014年現在とルールが違い、SP達成に必要なポイントが150万PVではなく100万PVだった)が達成できるって瀬戸際だったらしい。あまりにも焦って電話をかけてくるのでこっちも何事かと思ったんだが、そのくせ俺が「A子としては、俺が今月製品を買った方がいいの?」と聞いても「私がどうとかじゃなくて、俺くんがどうしたいかで決めて」なんて言って、あくまで「俺が考えて決めたことで、A子が俺にそうすることを勧めたわけではない」という形を作ろうとする。だけど決まってその後に「ただ、ハイピンの○○さんがミーティングで言ってたんだけど~~」とかってとにかく今月中に買った方がいいような話を続けて、俺の口から「じゃあ今月買うわ」って言わせるように誘導してくる。これは洗脳状態の俺からしても下心丸出しでウザいことこの上なく、よっぽど買うのをやめようかと迷った。この時買わなけりゃ良かったと今でも後悔してる。

 あとそういえば、ワークの中では自分の友人関係を洗い出して、それぞれの友人の氏名やら年齢やら夢やらを新規カルテとかいう専用用紙にまとめてアップにわたすんだが、これも不信感を増長させる要因になった。個人情報のかたまりをアップにわたすわけだから当然だね。

 なんだかんだで一ヶ月間にわたるワークが終了して、俺は晴れてB男とA子から、大々的に勧誘しても良いというお墨付きをもらった。ただし最初の数回は必ずB男とC男の経営するバーに相手を連れてきて、勧誘にはA子かB男が同席する(できれば自分ではなくA子かB男がアムウェイの説明役になる)という条件付きで。つまり、俺がA子から受けた勧誘方法を今度は俺が実践しろというわけだ。俺はさっそく水面下で勧誘してアムウェイの概況を伝えていた3人のことをA子、B男に説明して、早く会場ミーティングに参加させたい旨を伝えたんだが(ワークの中でB男は、「会場ミーティングにさえ参加させれば90%勧誘は成功」という旨の発言をしてた)、B男はまず彼らを個別にバーに呼んで、そこでA子・B男・C男と顔見知りにしておこうと提案してきた。そうすることで、今後は俺がいない時でもA子・B男・C男の誰かの都合が合えば俺に代わってその3人をミーティングに連れて行けるというのが理由だった。会場ミーティングに誘うならその後だという。バー代もかかるし時間の無駄だと思ったが、B男はそれなりにアムウェイで成功してるし、ここは従うことにした。


 ところでこの頃、俺はB男とA子に誘われて、C男のアップであるハイピンD子の自宅を訪ねる機会があった。D子の家は都市から離れた閑静な立地で、庭付きの日本風家屋だった。部屋にはアムウェイ製品がずらりと並び、エメラルドだか何かのピンを達成した時にもらったというアムウェイのロゴ入りの大皿が飾られていたのが印象的だった。

 この頃俺はアムウェイのボーナス制度自体は面白いと思っていたものの、製品は別によくないし、何よりグループの人間がみんなあのインチキデモを盲目的に信用していることに対して強い疑問を持っていた。そんな時にハイピンであるD子から直接、「アムウェイというのは製品とビジネスの両輪でやっていかなければならない。ビジネスだけをやって製品の良さがわからないグループはじきに商品が出なくなって破綻する」という趣旨の話を聞いて、なるほど理屈はもっともだと思った。だけどD子は続けて「だから、アムウェイの製品をどんどん使って良さを理解して、それを人に伝えていくのが私たちの大切な仕事なの。そのためにはデモが必要なのがわかるでしょ? たまに『うちのグループはデモなしで商品の紹介をする』ってグループが出るけど、デモをせずに商品の良さを伝えるのは難しいから、そういうグループは停滞するの」と言った。
 意味不明な論理展開だった。アムウェイ製品の良さがわからないとダウンに製品を勧められないからグループが破綻するのはわかるが、だからといってデモをしなければいけないということにはならない。彼らにとっては「デモをすることでアムウェイ製品の良さがわかる」ということが前提としてあるんだろうけど、誰がどう見てもあんな無意味なデモから製品の良さなどわかるはずがないじゃないか。それどころか、あそこまでトリックがバレバレだと、むしろ相手によっては逆効果にさえなるのに。ハイピンさえそれに気づかないのか? それともデモの無意味さに気づいていながらあえてそれに言及しないのか?

 俺の疑問に追い討ちをかけるように、その時一緒に部屋にいた某DDが、上で書いた「旅行に行った時にアムウェイのシャンプーがないとテンション下がるわー。髪の毛ギシギシするわー」というセリフを放った瞬間、このグループはハイピンから末端までダメなんだな、と理解した。グループに見切りをつけたら、もう誰に気を使う必要もなかった。D子の家からの帰り道で、A子に聞いてみた。
「あのデモってマイナスにしかならんと思うんだけど。絶対高校生ですらおかしいって気づくだろ? 本当にいい商品なら他のデモを考えたほうがいいんじゃないか?」

 A子の答えは、「俺くんはもっと素直になった方がいい。成功してる人のやり方を真似したら成功に近づけるんだから」というもの。
「いや、失敗から学ぶことだって多いだろ。そうだ、アムウェイを失敗した人を集めて講演をさせたら面白いんじゃね?『俺はこれが原因でアムウェイに失敗した』って内容を語ってもらってさ。その人たちを反面教師にしたらもっと系列伸びるかも」
「失敗した人の反対の行動をとったからって成功するとは限らないって」
「それ言うなら成功した人と同じ行動をとっても成功するとは限らんだろ」
「・・・」

 この日を境に俺はグループを完全に見限ったが、口の上手いB男とC男は自分のダウンを作るのに役に立ちそうだったのと、バーなら自宅よりもよっぽど簡単に勧誘相手をホームに引っ張りこみやすいという汚い打算でもって、表面上は今までどおりを装いながらアップたちと付き合いを続けた。俺のダウンにする予定だった3人もそれそれバーに連れてきてシステムの説明や商品の紹介も終え、会場ミーティングにも連れて行き、さあいよいよ次のアフターで入会手続きをしてもらおうか、というところまでたどり着いた。

 で、たぶんこの時こそがポイント・オブ・ノーリターンだったんだと思う。俺は間違いなくアムウェイに引っかかるくらいのアホだが、昼間正社員で働いていることもあって、洗脳状態であっても幸い仕事に対する責任感の欠片みたいなものだけは残ってた。A子もB男もC男もD子もその他のアップも、アムウェイ関係者全員が「アムウェイは昼間の仕事と同じくらい頑張らないと成功できないビジネスだ」ということを強調していて、これに関しては完全に同意してた。だから俺はアムウェイを昼間の仕事と同じように捉えて、今後自分のダウンになる3人のプロスペクトから飛んでくるであろうアムウェイに関する質問を予測して、あらかじめその答えを用意しておこうと思った。質問に答えられない上司とか、部下から見たら最低だわwってのが、本業でいつも思ってたことだったし。そして「アップやアムウェイに対して盲目的で、決して自分で情報の確認をしない(したとしてもアムウェイの中の情報しか取ってこない)A子やその他大勢のようなアムラーにはならないぜ! ダウンに聞かれた時に『アップがこう言ってたから』って回答だと格好悪いことこの上ないから、せめて根拠くらいは提示できるように自分で徹底的に調べてみよう」って決意した。


  5.覚醒、脱退、復讐

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